日本中を震撼させた、東日本大震災から早くも1年半が経った。被災者の方々は日々、懸命に、「普通の平穏な生活に戻ること」を願って復旧に取り組んでおられる。しかし、現実は厳しい。単に「普通の平穏な生活に戻ること」だけが望みなのに、乗り越えなくてはならない課題、難題は山のように立ちふさがり、遅々として進まない。被災者の方々の焦燥感、脱力感はいかばかりであろうか。
クリエイティブを生業としている人間集団である OAC として、復興の支援、応援の具体的な方法を模索してきた。
体力、資金力、製造力など即、役に立ちそうな能力にはあまり縁のないわれわれにとって、クリエイティブ力を最大限に使って現地の方々に喜んでいただけることは何か。
岩手県大槌町は、東日本大震災により最も大きな被害を受けた自治体の一つである。震災前の人口約 1万 6000人のうち、1 割近くが逝去された。6 割の家屋が被災し、6000人以上が避難。町役場そのものが津波の直撃を受け、町長を含む職員の約4 分の1 を失った。
直接、被災地を訪ね我々に何が出来るかを教えていただくことが先決であると、一年ほど前から何回かお話を伺った結果は、物でも、体力でもなく、一番みんなが欲しいのは「心を癒してくれる、穏やかにしてくれる、ほっと出来るような何か」であった。
政治家、官僚、大企業が思いつかない、でもとても大切な何かこそ、われわれクリエイティブ集団である OAC に出来ることだと、町の方々と一緒に考え、得られた結論は「心和むカレンダー2013」を仮設住宅にいまなおお住まいの方々にお届けしようということであった。
一見、地味で些細なことにみえる活動に様々な方々の賛同、協力が得られ、第4回クリボラをここに進めることが出来た。作品を創ったクリエイター、審査員各位、版下、印刷を引き受けていただいた方々、紙を快く提供していただいた企業、素晴らしい会場を提供していただいた百貨店、それぞれの方々の本プロジェクトへの想いが結集して皆様にお届けすることが出来た。
寺田寅彦が昭和 8年 5月発行の「鉄塔」に載せた「津波と人間」の中で同年 3月 3日早朝の三陸沖大津波」とその 37年前、明治 29年 6月 15日の同地方に起ったいわゆる「三陸大津浪」について触れているように、自然災害の被害を繰り返さないための知恵はその事実をきちんと伝承すること、時とともに風化する経験値をいかに次の世代へ継承するかということである。
数十年どころか一年半経過した現在、すでに世の中の関心から遠ざかりつつある今こそ、この展示を通じて多くの人々が「東日本大震災」を想い、継続的な復興支援に正面から向き合っていただけることを切に願っている。
公益社団法人 日本広告制作協会(OAC)
理事長 鈴木 清文